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15話 皇女ミリアと、生まれて初めての緊張

Auteur: みみっく
last update Date de publication: 2025-09-29 09:00:47

「緊張して行けなかったんだと思うよ」

 俺は、ミリアに説明した。

「そうなのですか? いったい……何に緊張しているのでしょうね?」

 ミリアは純粋に首を傾げた。彼女の表情は、心底不思議そうだ。青く透き通った瞳には、なぜ娘がそんなに怯え緊張をしているのかという疑問が浮かんでいた。

「緊張は、ミリアには分からないと思うけどなぁ……」

 俺は、苦笑しながら言った。ミリアは、生まれた時から豪邸や宮殿に住んでいて、父親は最高権力者で、国王よりも権力があって怖い物知らずでしょ。大勢を前にしても平然としてるし……お偉いさんも平民同様の扱いでしょ? それどころか、グラシス国王さえ同様の扱いだったし。彼女の人生には、緊張という感情が入り込む隙がなかったのだろう。

「緊張は……この前に初めて知りましたわ……」

 ミリアは意外な言葉を口にした。え? ミリアが緊張を覚えたの? スゴイじゃん! ミリアに緊張を与える程の相手がいるの? そんなスゴイ恐い人にでも出会ったのか? 皇帝よりもさらに上の権力者でもいたのか? 俺の頭の中には、たくさんの疑問符が浮かんだ。

「え? ホントに? ミリアを緊張させるとかって、そんな凄いヤツがいるんだな?」

 俺は、驚きを隠せないで尋ねた。

「ええぇ……とても凄いお方ですわ……緊張して震える思いでしたわ……」

 ミリアの青く透き通った瞳が、その時のことを思い出しているのか、わずかに揺れる。その声は、感動と畏敬の念に満ちていた。ほぉ……やっぱり人だったのか、スゴイお方……ミリアが敬語を使い震えて褒めるような相手がいるんだな。

「へぇ……それは凄いな……俺だったらどうなってたんだろうなぁ……」

 俺は、想像力を掻き立てた。ミリアが緊張で震えて、褒めるような相手……想像できないな~。どんなスゴイ人なんだろ……皇帝より偉い人……だろうな? ミリアの教育係で恐い人でも居るのか? それか……母親とか?

「ユウヤ様ならば、平気なのではないですけね……」

 ミリアは俺の顔をじっと見つめながら言った。その瞳には、俺への絶対的な信頼が宿っていた。

「いやいやぁ……ミリアが緊張する相手だろ? いったい誰なんだ……?」

 俺が重ねて尋ねると、ミリアは少し顔を赤らめ、視線を泳がせた後、おずおずと答えた。その仕草は、まるで秘密を打ち明ける前の可愛らしい少女のようだった。

「えっと……それはですね……ユウヤ様ですわっ」

 は? まさかの……俺? 俺は、恐くは無いし威厳も威圧感も無いから王の紋の入った短剣を見せても疑われて、直ぐに牢獄に入れられちゃうんですけど!? 俺の頭の中には、驚きと困惑が渦巻いた。

「は、はい? 何で俺?」

「別れを告げられて、再びお会いした時……恐怖と緊張で震えてましたわ」

 ミリアの青く透き通った瞳が、真剣な光を帯びて俺を見つめる。は、はい? 俺なんかで緊張するの? あのミリア様が? 信じられないような言葉だった。

「俺に緊張するの?」

「はい……生まれて初めて恐怖と緊張をしましたわ」

 うん……そこまで思ってくれてるのね。嬉しいけど悪い事をしたな……まぁ俺もミリアが別れるって言い出したらショックだよな……。彼女の言葉は、俺の胸にじんわりと染み込んだ。

「うぅ~ん……それは、悪かったって」

 俺は、心から反省の意を込めて言った。

「いえ……あれは、わたしが悪いので……自業自得ですわ」

 ミリアもまた、首を横に振った。互いに謝り合う俺たちを、娘は不思議そうな顔で見つめていた。その目には、理解できないといった感情が浮かんでいた。

「……いったい何のお話ですか?」

 娘がトイレから戻ってくると、平気で話に加わってきたので、ミリアが不機嫌そうな顔になっていた。ミリアの正体も知らないから、普通に話に入ってきただけだ。とは言っても、この屋敷のお嬢様によく普通に話を掛けられるよな……ってメイドさんには話し掛けられなかったんじゃないのか?

 話の合間を見ていたメイドさんが声を掛けてきた。

「ミリア様、そろそろ……お召し替えを」

 そういえばミリアは平民の服を着たままだった。だから平気で話に加わってきたのか……なるほど、俺は納得した。

「そうですわね……それではユウヤ様、少しお待ち下さい」

 ミリアは、ユウヤに優雅な仕草で待つように促した。

「うん。それじゃ、リビングのソファーで待ってるな」

 娘さんとリビングのソファーに戻ると、定位置に俺がソファーに座ると、娘さんが隣に笑顔で座ってきた。その顔には、俺と話せることへの喜びが浮かんでいた。俺は、なにも気にせずに雑談をしてミリアが戻ってくるのを待っていた。

「もう恐い人に追いかけられない……?」

 娘は心配そうな表情で話を掛けてきた。そりゃコワイ思いをしてきたんだから、しばらくはコワイよな。その声は、まだわずかに不安を含んでいた。

「うん。大丈夫だと思うよ」

 俺は、娘を安心させるように言った。

「ホントにホント……?」

 娘は不安そうな顔で俺を見つめてきた。その瞳には、疑いの色が残っていた。あの店の奴等からは追い掛けられることは無いけど……。

「他の店で、同じようにお金を借りてなければだけど……」

「お金は、あのお店でしか借りてないから大丈夫」

 娘はホッと胸をなでおろした。その顔には、心の底からの安堵が浮かんでいた。

 ミリアが、真紅の豪華なドレスに着替えて階段を降りてきた。その姿は、一瞬にして部屋の空気を変えるほどの威厳と美しさを放っていた。しかし、俺達が楽しそうに話してるのを見て、彼女の優雅な足取りは一変し、早足で階段を降りてきた。その目には、嫉妬と怒りの炎が揺らめいていた。

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